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八卦掌の基本功の種類と練習方法(独習にも対応)

近代格闘術八卦掌の基本功を、梁振圃伝八卦掌においても指導許可を得た水式門代表・水野が詳しく解説

(このページは、2024年3月10日に更新しました。)

八卦掌には、他の門派と同じく複数の基本練習が存在している。このページでは、私が学習し指導許可を得た「梁振圃伝八卦掌」における、各種基本功の役割と練習方法ついて説明していく。

八卦掌水式門(以下「弊門」)では、対多人数・弱者使用前提・対武器の清王朝末期成立当時の八卦掌(以下「清朝末式八卦掌」とする)を伝えている。しかし私が直接習った梁派の八卦掌は、屈強な修行者もしくは精密な技法を習得した熟練者が使用することを前提とする対一人敵前変化攻撃のエリート拳士向け八卦掌である(※斜進技法は採るが、相手の力とぶつかる攻撃技法を採用するため)。

近代梁派八卦掌でも、走圏は、速い動きを実現するための身体開発練習として利用されるが、清王朝末期頃八卦掌では、走圏は移動遊撃戦渦中における移動の仕方そのものを体得する練習となる。このように、近代格闘術八卦掌と清朝末期頃八卦掌では、走圏ひとつをとってみても練習の狙いから違うのである。

基本功においても、近代格闘術八卦掌では螺旋功を重視するが、清朝末式八卦掌では、推磨式基本功(の翻身旋法)を最重要視する。射程距離はどちらのスタイルでも重要なため、回肩功と伸肩功は、じっくり取り組んだ方がいい。

先ほども触れたが、私は近代スタイル八卦掌において指導許可を得た経緯もあり、近代と清朝末式の両方の経験によって得た深い指導が可能である(梁派伝人の道ではなく、清朝末式八卦掌の伝習の道を選んだ理由は、私のプロフィール を参照のこと)。

よってこのページでは、近代格闘術八卦掌の基本功の単独練習法を、できるかぎり詳しく伝えていこうと思う。

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八卦掌で重要な基本功(基本準備功)とは

八卦掌は、腕を伸ばして、遠い間合いから攻撃することも重視する。よって、回肩功・伸肩功のような、身体の各部位可動域を改善させるような練習は毎日行う必要がある。

現在私が毎日練習開始前に行っているのは、以下の基本功となる。

回肩功伸肩功は、射程距離を長く取りたい拳法である八卦掌ゆえ、大変重要である。

仆腿功は、練習時における筋への過重負担による故障を防ぐために、「ストレッチ」的な範囲で取り組むこと(圧腿・あったい、の意識で激しく行うとすぐに故障する)。限界まで身体を柔らかくすることは、実戦では必要ない。ほどほどに仆腿功ができればよい(両足の裏前面を地面につけることが維持できる範囲でおこなえばよい、ということ)。

「螺旋功」は、近代スタイル八卦掌では、大変重要視されている。敵のすぐそばにいながら、敵の攻撃をいなしたりかわしたりするには、目まぐるしい変則ステップと、手先の螺旋功が必要となるだろう。清朝末式八卦掌では、敵の側面にとどまらず電光石火で通り過ぎるスタイルゆえに、螺旋による攻防はできない。よって重視していない(清末式八卦掌は、転身による推進力から生じる「勢」を最重視する)。

「推磨式基本功」は、近代・清末式ともに、重視する。しかし清末式八卦掌では、推磨式基本功における練習要素たる「翻身旋法」が、中核技法の「斜め後退スライド」を円滑にさせる基本となるため、極めて重要視している。近代八卦で重視する理由とは、推磨式基本功で学ぶ最短経路による転身攻撃によって手返しよく敵に圧力をかけることで、なかなか実行・習得できない「螺旋功による制敵」の代替功として利用するために、重視する。

「丹田回し」「両膝回し」は太極基本功となる。可動域の通常範囲内の開拓による成果は、故障を未然に防ぐことに役立つため、コンスタントにおこなうとよい。仆腿功と同じく、限界まで可動域を広げようとしないことである。

回肩功・伸肩功

初版解説動画:この動画には音声があります

穿掌を放つ時、肩をいからせない状態でより遠くへ手を伸ばすには、それを意識した肩の使い方トレーニングが必要となる。

穿掌を打つたびにしっかりと自然に肩を入れて指先を遠くへと到達させるために、八卦掌では回肩功と伸肩功を重視する。

伸肩功は通背拳や祭李仏拳などの腕を伸ばす拳法においてよく行われる基本功である。八卦掌でも、それらの拳法と同じくらい取り組む。

清朝末式においては、とにかく敵との間合いをとることを重視する。「間合いをとる」と簡単に書いたが、通り抜け攻撃をする際、自分の指の第一関節部分がかろうじて届く距離を、瞬間に取る必要があるため、指先で打っても大丈夫な目標物を使って、実際に何度も通り抜け打ちをして感覚をつかむ必要がある。

時間はかかる作業だが、何度も繰り返していれば、移動しながらの瞬間瞬間に「今なら届く」「これは届かない」と判断ができるようになり、無駄打ちを防ぐこともできるようになる。

この作業は、「回肩功・伸肩功」の両功を行ったうえで行うとよい。

回肩功(※初版解説動画では0:00~1:43)

第2版解説動画:この動画には音声があります

回肩功では、肩を回転の元として、おおきくゆったりやや大げさに回す。日頃から肩を可動域一杯に回すことで、有事におけるとっさの防御反撃の動作の中で肩が攻撃の動きの速さ・精度を邪魔することがなくなる。※力を入れることなく動かすことができるようになるから。

近代八卦の走圏では、腕を内に激しく絞るため、肩が張りやすい。その張った状態から、リラックスしていくことを学ぶ(”緊張の中に弛緩を見いだす”作業)。

走圏練習時における基本姿勢を取ることの練習と併せて、この回肩功で、肩に必要以上の力を入れないことを学ぶ。肩に必要以上の力を入れないで動かすことができるようになると、相手の攻撃に対して瞬時に手を出すことができるようになる。

※動作をする物体(ここでは”腕”)の末端(手の五指部分)にのみ力が入っている状態になっているため

動画中では、腕の動きを使って肩を回す動作を助けているが、肩のみで行う場合もある。初学者は、腕の動きを使って大きく行う方がよいだろう。

回肩功で重要な内的意識は、「開と合」、もしくは「縮と展」の意識。大きく肩を回している場合、後ろ方向に回しきっている場合を開(展)、そして前方向に回し戻してきた場合を合(縮)、というように、肩を回すことによる胸の開きと閉じを意識する。

歩きながら打つことも多い近代八卦の技法でも、、開と合の身体操作の説明をもって、その動作の始まりと完結を説明することができる。よって「開と合」もしくは「展と縮」の意識もって練習することは大変重要となる。

伸肩功(※初版解説動画では0:00~1:43)

第2版解説動画:この動画には音声があります

ふところ周りに空の状態を作り(両腕と胸前のくぼみでU字の状態を作るイメージ)、上体をやや前方へ傾斜させながら打つ拳法(通背拳など)で重要な基本功となっている。

八卦掌は上体を前傾させてまで打つ拳法ではないが、「一寸長きは一寸強し」の門諺(門派内で言い伝えられることわざのこと)があるくらい、射程距離を重視する。 よってこの伸肩功はとても重要なのである。穿掌の練習時には、肩は目いっぱい前に出して、遠くの物を取るかのごとく練習する。

とにかく肘を曲げないこと。肘を動かさない、としっかり決意した後、肩の前後だけで腕を動かす。肘を動かしてしまうと、肩の動きの練習にならない。両肩を交互に前後させたり、両肩を同時に後ろ・前方向に動かしたりする。

単繰手や老八掌の順勢掌で登場する、敵の手首をつかんで一気に引き寄せたり引き回したりして相手の上体を崩す技(多く存在するが「岱手(たいしゅ)」が有名)では、肩の一瞬の引きと突き放ちが重要となる。伸肩功はその時の動きの基本となっている。

螺旋功

近代格闘術八卦掌において、老八掌を学ぶまでの螺旋練習のメインとして、身体に八卦掌の螺旋力を吹き込むための螺旋功。一定の方向へねじらせる姿勢要求を実行することで、腕部や脚部・腰部にねじりを生じさせる。

そして姿勢を逆方向へ戻し返すことで、生じたねじりを一端解消させ、また反対方向に対する姿勢要求を実行することで、反対向きへのねじりを生じさせる。

このねじり→ねじり解消→ねじりの動作を繰り返すことで、身体の各部のねじりの可動域を開拓し、養う。

ねじりを生じさせ、それを解消させる勢い(力)を、我の打つ掌や拳、腿にのせて相手に伝えることは、近代八卦掌の発力(発勁)の一つとなっている。

近代格闘術八卦掌は、敵の側面、もしくは自身の攻撃が届く範囲内にとどまって攻撃機会を増大させ、技法で敵を積極的に攻撃するスタイルである。

「自身の攻撃が届く範囲内にとどまる」ということは、同時に、敵の攻撃にも常にさらされることを意味する。体格・筋力に劣る者は、力に勝る敵の攻撃を、手元の精密な技法で克服する必要がある。その精密な技法の代表格が「螺旋功」なのである。

日本の指導者のほぼすべてが、近代格闘術八卦掌の指導者である。彼らが皆、螺旋功を重視し、時に「八卦掌は螺旋の拳法」と謳うする大きな理由の一つがこの点にある。

螺旋功は、相手の力に勝る攻撃を技術で克服する「相手次第」の領域からスタートする、習得の難しい技術である。ここで紹介する単独練習だけでは、独りよがりになる。必ず、螺旋功を使いこなすことができるレベルの指導者との、対人練習の中で、成果を確かめることが必要である。

清朝末式八卦掌では、敵の側面にとどまらず、後ろ敵には間合いをとり、前の敵にはスライド回避しながら打ち抜けるため、螺旋功は重視しない(接触を極力避けるため)。

護身術の側面を持つ清末八卦掌は、失敗(敗北)が許されない体系から、実用に耐えうるレベルまで一人練習で引き上げることができる技術体系が必要となる。螺旋功のような対人練習の膨大な積み重ねによりはじめて習得しうる高度な技法を要しない点は、弱者護身の実現に大きく貢献している。

龍玉遊掌

八卦掌は螺旋の拳法でもあるため、老八掌を習うまでの間は、いくつかの螺旋功を練習する。龍玉遊掌は螺旋功の代表的な練習法であり、一番最初に学習する。

龍玉遊掌は、後ろ回しと前回しの2パターンがある。後ろ回しは主に後方や前方の攻撃を払う意味、前回しは、敵の攻撃を下から跳ね上げ、上から蓋手掌(がいしゅしょう)などで攻撃する意味がある。

最初は片手で螺旋の意識と正しい腕の軌道を意識して養い、後に両手で同時に練習をしていくと、習得しやすい。

後ろ回し練習

片手練習の方法。後ろ回し練習法の動作には、後方敵へのけん制・防御の意味が含まれている。

両手での練習法は、腕にかける螺旋の負荷を強くするために行う意味合いが強い練習法の反面、片手練習法の動きは、対多人数遊撃戦の渦中で常に用いる動きであるため、片手練習の方をしっかりと行うとよい。

後方へ腕を回し、自分の身体の斜め後ろで腕を跳ねあげる際も常に手のひらを上に向けるように回すと、腕に螺旋のテンションをかけ続けることができる。

両手練習の方法を説明していこう。両手で回す際は、手のひらを上に向けて回すのが難しくなる。身体全体を使って手のひらを上にした状態を保つつもりで回すこと。変則攻撃を要する近代格闘術八卦掌では、身体全体を使った攻撃が大変多い。そのイメージをもって行う。

腰斜め後ろ上まえ腕をしっかりと回して持っていき、そこから上に跳ね上げ、頭の斜め上で両手をクロスさせて下ろしながら、再び後方へ回す・・・・の動作を繰り返す。

前回し練習

前回し練習法には、側面敵からの攻撃を跳ね上げ、すばやく手をかぶせて打つ意味と、側面もしくは後方敵からの攻撃を払う意味が含まれている。しかしあまり難しく考えないこと。敵の状況で、回す手に敵の手を絡める、接触させるなどで使用するため、その時の状況によって結果がころころと変わるからだ。

手をかぶせて打つ動作は、老八掌・双換掌の蓋手掌(がいしゅしょう)にもつながる。蓋手掌は、近代格闘術八卦掌の奇襲攻撃の代表的な技でもあるため、しっかりとその基礎をマスターしておく。

後ろ回し練習法と同じく、常に手のひらを上に向けるように心がけて練習をし、螺旋のテンションを腕にかけ続けることで螺旋の下地を築いていく。

両手回し練習法では、体全体を使って回すことで、手のひらを上に向けた状態を維持します。大きくダイナミックに(おおげさに)回すこと。近代格闘術・清朝末式八卦掌ともに、小さくまとめる必要はない。大げさな動作で、敵の攻撃軌道を妨害し、我に敵の攻撃手が到達することを防ぎ、かつ敵に「打ちにくさ」を感じさせる。

敵の攻撃を跳ね上げるつもりで頭の上まで腕を上げる、かぶせて打つ、腕を外に回しながら下ろして敵の攻撃を防ぐ、を意識して練習していこう。

敵の攻撃を跳ね上げて打ったり防御する動作は、清朝末式八卦掌で多用する発力(発勁)の一つ「翻身発力」の基礎ともなる重要な動作につながる。

翻身旋掌

修行初期において八卦掌の螺旋になじみ身体に螺旋力を吹き込むための螺旋功。その中で、遊撃戦身法に直結し、その渦中で身を守るための決死技につながる翻身旋掌を解説する。

メイン用法は、振り向きざまの防御というシンプルなものだが、撩陰掌・平穿掌を行う際の基本身法ともなり非常に多用するため近代格闘術八卦を志す者は、是非習得しておきたい。

翻身旋掌は、「収縮」術理の螺旋功である。よって、股関節を畳むことで後方を振り返り、手を出す。出来る限り、振り返る際の回転半径を小さくするためである。分開旋掌と全く逆である。

推磨式基本功における「翻身旋」の理を用いるため、翻身旋掌の名となる。

分開旋掌

八卦螺旋功の一つ「分開旋掌」。分開旋掌は、龍玉遊掌と違い、その動作はよりシンプルであるため、実戦での使用例が分かりやすいです。

通り抜け様の攻撃に多用でき、動作も大きくわかりやすいため、対多人数遊撃戦渦中の息が上がった状態でも使用できる現実的な技につながります。

振り向きざまに持っている武器(刀・棒・棍など)を敵に向かって差し出す際の動きに使用できる。その時の発力は「翻身発力」を使用する。

分開旋掌は、「展開」術理の螺旋功である。よって、腰の回転にて回転半径を大きくして、大きくダイナミックにかき分けるように行う。

こちらの用法は、振り向きざまに手(武器)を振り回してけん制したり、攻撃したりするためである。ここで推磨式基本功の「翻身旋」を用いていたら、振り回す手(武器)の攻撃射程圏内が小さくなってしまうため、用いないのである。

左右旋掌

対多人数遊撃戦身法のカオスの中で、シンプルさから使いやすい用法につながる左右分掌を解説する。

近代格闘術八卦掌における主な用法は、後方けん制攻撃と腕つかみによる引き倒しとなるが、シンプルで使いやすいのでマスターしてほしい。

清朝末式八卦掌では、左右旋掌は、斜め後方スライド撤退戦時の去り打ち攻撃時の「肩入れ」の意味をもって練習する。敵を一層自分から引き離すために行うのだ。敵の手を掴むなどして、敵と接触して攻撃機会を増すために行う近代格闘術における用法とは、まったく異なる。

 左右に伸ばした手は両方とも掌を上にしているが、片方へ上体を偏らせる際、偏らせる方の腕を身体後方側へねじらせ掌を上に向け、反対側の腕は身体前側にねじらせ掌を上に向ける。

 そして、片方にねじらせる時は連動して、股間節周りも、「回す」のではなく「折りたたみつねじらす」。これらの動作を何度も繰り返す。

 脚は逆ハの字に立つことで、上体を片方へ偏らせる際に、より一層螺旋を感じることができる。身体をねじらせる体幹筋力(インナーマッスル)に刺激を与える。

 偏らせる方向へ腕を回し螺旋をかけながら伸ばす動作は、螺旋をかけて強くなった腕と指先で敵を攻撃する意味を持つ。また、伸ばす方と反対側の手は、腕を回しながら相手の手首をつかみ、思い切り引き崩す意味がある。

螺旋功初版解説動画

龍玉遊掌(0:00~3:59)

翻身旋掌(4:00~9:26)

分開遊掌(6:35~9:26)

左右分掌(9:27~)

推磨式基本功

近代格闘術八卦掌における推磨式基本功は、その戦闘スタイルを実現するために必要とする三要素「張り・滑らかな歩法・螺旋」における「張り」と「螺旋」要素を磨く基本功となる。

清朝末式八卦掌では、この基本功により初めて、身体に斜め後方ライドの身法を経験させる。清朝末式八卦掌最重要要訣の一つ、「翻身旋(ほんしんせん・以下「翻身旋法」と呼ぶ)」である。この法に足技が備わると、まさに対多人数遊撃戦八卦掌となる。

推磨式翻身功の内容は、以下の5つとなる。

  • 平穿

基本二法となる、「拍」・「推」の練習において、股関節を畳みながら側面や後方へ手を出す身体操作法「翻身旋法」を学ぶ。

なぜ「拍」・「推」が基本二法となるのか。根幹術理に関わる知識のため、少し触れておく。

成立当時の、八卦掌原型の「転掌」では、その身法は、「敵に背を向けない斜め後方スライド(内転翻身斜め後方スライド)」と「敵に一瞬背を向ける斜め後方スライド(外転翻身斜め後方スライド)」のふたつだけであった。このふたつは、転掌の誕生と発展の原型となった「単換刀」から生まれたものである。

八卦掌修行において最初に触れる中核技法たる「内転翻身斜め後方スライド」は、転掌式の一つ、推磨掌(すいましょう)でその技術を練習する。その後「外転翻身斜め後方スライド」を、同じく転掌式の一つ、陰陽魚掌(いんようぎょしょう)にて学ぶ。

推磨掌で使用する手法が、「推」である。脚を固定した状態で内転翻身斜め後方スライドを経験させるのである。陰陽魚掌では「拍」をその形のままでは用いないが、身体を展開して攻防をする攻防一体の技術「拍」を通して、身体に初めて陰陽魚掌中の展開術理を経験させる。

よってこの二法が、基本二法となるのである。この二法練習時に、脚固定の状態で、何度も翻身旋法の術理を身体に経験させる。

基本二法の練習後、変化型である「劈」・「撩」・「平穿」を学び、手技の攻撃バリエーションを増やしていく。しかしあくまで、翻身旋法の術理を様々な手技にて経験させるための手段にとどまる。

推磨式基本功の最重要項目:翻身旋法(ほんしんせんぽう)

すべての推磨式基本功では、振り向きざま攻撃の効果を最大限に高めるための股・腰の使い方である「翻身旋法」を用いる。

腰を回転させて後方を向くのではなく、股関節部分をたたむ(ずらし回す)ことで転身時の身体回転半径を最小にし、キレを出し、腕の軌道を身体のすぐそばとすることができる。軌道が身体にほぼ絡んだ状態となるので、最小半径となり素早く、技を繰り出すことができるようになる。

また、軌道半径が小さくなることで繰出し動作が小さくなり敵にもわかりにくくなるため、不意打ちけん制の効果が高まる。

悪い例は、腰を回転させて身を翻すことである。腕の軌道半径も動作も大きくなり、敵に悟られやすくなり、けん制不意打ちの効果が減少する。己の身体軸もずれやすくなり、敵のすぐ傍でバランスを崩すことで不覚をとる最悪の結果につながる。

推(すい)

股関節を回しながら推の動作をし始めるのではなく、股関節を畳んで身体を後方へ向け、上体が後方へと向き切った瞬間に、間髪を入れず、後方へと手を推し出す(推)。

そうすることで推の軌道半径が最小限となり、振り返った瞬間にいきなり推を打たれるという、八卦掌らしい意表を突く攻撃(不意打ちけん制攻撃)をすることが可能となる。

対多人数移動遊撃戦において「不意打ちけん制攻撃」は大変重要な要素となる。対多人数移動遊撃戦では、相手を倒すことに全くこだわらない。こだわっていたら、眼前の敵に気持ちが偏り、後方敵から攻撃されるからである。

一人一人の敵に対し、長くて2テンポ程度しか割くことができない。その際の攻撃は、敵の自分に対する攻撃を遮り、もしくは敵の足を止め接近を防ぐ「不意打ちけん制攻撃」なのである。

「推」は、「不意打ちけん制攻撃」を最もシンプルに実行する手技である。練習の際は、後方の敵の足を止める意識で行う(大きな力で打つ意識で行わない、ということである)。

拍(はく)

「拍」による身体の使い方の意識は、「縮→展」である。

翻身旋法を用いて横方向へはたく「拍」攻撃をしてから、推磨式へと戻す。

基本功の型練習の順序は、「(1)手のひらを上にした手刀で己の身体の正面まで腕を移動させ、(2)翻身しながら反対側の腕の手の甲で横方向へ思いきりはたき、(3)推磨式への形へとつなげる」となる。

清朝末式八卦掌による対多人数移動遊撃戦の渦中では、移動しながらの翻身旋法により「拍」を用いることで、近距離に迫った後方敵への「拍」による不意打ち電撃攻撃がよく用いられる。

近代格闘術八卦掌では、穿掌などで突き攻撃をした後、「拍」を用いた単招式(たんしょうしき)である「翻身拍打(ほんしんはくだ)」にて、敵の側面を移動しながら蓋手(がいしゅ)掌で攻撃するなどの使用例がよく見られます。

劈(へき)

股関節の畳み込みと同時に、肘下にある手を、頭の真上を通って後ろに振り下ろす(劈)。

この時、ただ単に腰を後ろに回しただけの動作で肘下の手を後方へ向けて振り下ろすと、その手の軌道は頭の真上ではなく、頭の斜め前を通り過ぎる軌道へと変わってしまう。

実際の八卦掌の各技には、このような軌道の技も当然に存在するのだが、身体後方展開時の身体のキレを磨く推磨式基本功なので、敢えて股関節を畳んで手の軌道を頭の真上とすることを目指す。

平穿(へいせん)

平穿を効果的に打つためには、推磨式基本功で要求される上体を後方へ向けるプロセスを徹底して守る必要がある。技が大きいため、敵にできるかぎり分かりにくい状態で手を届かせたいからである。

平穿は力を伝えやすく、当たれば強力なダメージを敵に与えることができる。しかし上体の後方への向け方を、腰の単純回転だけによって行うと大振りの手刀攻撃になってしまい、前に出て腕の根本部分を押さえられたりして容易に防がれてしまう。

推の場合と同じく、上体が後方へと向き切った瞬間に、間髪を入れず、後方へと手刀を切り出すと相手はよけにくくなる。

撩(りょう)

さきほど推で触れた「意表を突く・不意打ち」の代表的な手法が「撩」となる。振り向きざまに敵の脇腹・腕の付け根・下腹部、そして顔付近を、下から上へ振り上げる軌道の中で打つ。

「撩=金的攻撃」というイメージを持っている者が多いが、撩の用法は当然それだけにとどまらない。

※振り向きざまの金的攻撃は、後方の敵がかなり接近していないと当たらない。金的に対する手技の接近によって、身体根幹部を守る人間の防衛本能が働くため、防がれることが多い。

推磨式基本功としては、しっかりと下から打ち上げている。実闘に置いては、後方の敵が間近であれば金的や下腹部を打ち、中距離であれば腕や顔をめがけてけん制として撩を放つことが多くなる。

動画においても、手を金的よりもかなり上まで振り上げているのは、敵の頭部をも攻撃対象としているためである。

什歩(ぼくほ)と什歩穿掌

中国拳法でよく見られる姿勢・什歩は、梁振圃伝八卦掌・老八掌の「順勢掌」で登場する。

実際の戦いの場面では、動画中に見られるほど低くはしゃがまない。清朝末式八卦掌では、その場に一瞬たりともとどまらないため、このような低い姿勢の仆歩は行わない。

近代格闘術八卦掌では、敵側面にて変則攻撃を展開するため、ダイナミックな動きを練習中で行う事は、敵側面での変則攻撃を支える体幹力強化につながる。上下のメリハリをしっかり表現することで、より変則技術を養うことができる。

手を上に伸ばす時は、身体を手の伸ばす上方へ(まるで龍が天に登っていくかのごとく)螺旋に回しながら思い切って手を引き上げ、それに伴いその場で軽くジャンプする。

その小さなジャンプ後、軸足が地面に着地すると同時に軸足となった脚と反対側の脚を伸ばしながら身体しゃがませ、前手を先行させて、その手で身体を引き上げるように、下から上へ向かって身体を移動させていく。

この上下の動きは、残像だけを残して下方へ一気にしゃがみこむ、まさに影だけを残し一気に下へと下降する「脱身化影(だっしんかえい)の如く」演じる。脱身化影は順勢掌の別名ともなっている(脱身化影掌)。

近代格闘術八卦掌におけるこの動作の用法としては、下から相手の股間へ手を引き上げ股間を打ったり、股間から臀部へ手を入れ投げ飛ばす、という意味が含まれている。ほかにも反転蹴りの意味もある。

金鶏独立功(バランス強化功)

八卦掌の基本技の練習をゆっくり確実に行うだけでもしっかりとした体幹の強化へとつながるが、ここで紹介する金鶏独立の姿勢で上下することも有効なトレーニングとなる。

 この練習を単なるスクワットと位置付けないこと。この練習はあくまでバランストレーニング的要素が強いのであり、足を曲げることができない者は、少しだけ曲げて上げる、だけでも十分な効力を得られる。

この練習もじっくりと行って欲しい。速く動いてしまうと、速さの中でバランスがとりやすくなり、効果的に体幹力を上げることができなくなる。

この動画では、手は老僧托鉢式を採っているが、各々の好きな姿勢で構わない。アドバイスとしては、手は前方に差し出しながら上下の運動をすることである。

バランストレーニングは、取り組んだことですぐに効果を実感できるものではない。よって多くの修行者がこの部分に目をつむってしまう。

つきつめるところ、実戦において素早く向きを転じたり間合いを詰めるためには、「体幹力(たいかんりょく)」が必要となる。体幹力を鍛える練習は、走圏などが代表的であるが、金鶏独立功も地味ながら有効となる。 回数は少しでもよい(3~5回でも問題ない)。少しづつでもいいので、練習に定期的に採り入れておくと八卦掌の総合力上昇につながる。

丹田回し

丹田を強く意識する門派として有名なのが太極拳である。ここでは太極拳の丹田開発方法を参考に練習していく(これは師伝である)。

八卦掌が徹底した移動遊撃戦を採る拳法であっても、敵と組み打つ可能性は残されます。敵と組み合って戦うことになった場合、一瞬で相手をいなし後退スライドできる技術は、生存を実現するうえで大きな利点となります。

その可能性を高めるためには、平素より丹田を意識的に回して力と力のぶつかり合い闘争に巻き込まれないようにしておく概念を身体に経験させる。

太極拳の手の動き(丹田回しで用いられる手の動きは『雲手』の手の動きが一般的)を伴って練習してもよいが、八卦掌の基本功としては、必ずしも用いなくてよい。

動画の動きのように、大きく行っていく。上丹田(胸回り)の丹田回しも同じとなる。

太極拳の手法を用いない代わりに、八卦掌としては、両手を胸や丹田に置き、積極的にその場で回す。そうすることで、手の動きと丹田の意識を結合させやすくなる。

膝回し

ひざ回しも、主に太極拳の鍛錬方法から採り入れている。これは師伝であり、八卦掌にもともとあった鍛錬法ではない。

しかし遊撃戦というある意味不安的な要素が満載された戦闘スタイルでは、軸を意識してしすぎることはない。ひざ回しは、丹田回しと同じく、自分の軸を知るうえでの有効な作業となる。

近代格闘術の組打ちや推手では、丹田とひざの動きだけで、相手の力とぶつからない状態を作り、常に自分の軸を確保できる状態を保つことができるならば、大敗はしなくなります。

多くの武術は、敵の態勢を崩すことが第一目的とされているため、それに対し我の軸を崩すために向かってくる敵の圧力と、敢えて戦わない練習をすることは、合理的な手段となる。特に体格や筋力に劣る人間が練習すると、他の技法の補完となる。

筋肉や力を否定するのではない。力とぶつからないようにして、「自分次第」の領域で対処する。敵よりこちらの力の方が強いことは、なかなかないからである。

弱者生存の護衛護身武術を極めたい方へ~清王朝末期頃のままの八卦掌「清朝末式八卦掌」を国内で唯一伝える水野先生の道場「八卦掌水式門」入門方法

1.八卦掌水式門~清朝末期成立当時の原初スタイル八卦掌「清朝末式八卦掌」を国内で唯一指導する稀代の八卦掌家・水野先生の道場

八卦掌水式門代表・水野の写真
八卦掌水式門代表・水野義人先生

八卦掌水式門で八卦掌第7世を掌継させていただいた、掌継人のsと申します(先生の指示で仮称とさせていただきます)。掌継門人の一人として、八卦掌水式門の紹介をしたいと思います。

石川県・遠隔地門下生

八卦掌水式門は、清朝末期成立当時のままの原初スタイルの八卦掌「清朝末式八卦掌」を国内で唯一伝える八卦掌専門道場です。「単換掌の術理(単換掌理)」による「弱者使用前提」・「生存第一」の技術体系からぶれず、成立当時の目的を一心に貫く伝統門です。

八卦掌第6世の水野先生の伝える八卦掌は、強者使用前提・対一人・対試合想定の近代格闘術的八卦掌が主流となっている現代において、対多人数移動遊撃戦による弱者使用前提の撤退戦を貫いた極めて異色の存在となっています。

先生の伝える八卦掌の最大の特徴は、「単換掌の術理(水式門で先生は、「単換掌理・たんかんしょうり」と略して指導しています)」に徹している点です。

「単換掌の術理」とは、敵と接触を極力さけ、敵の力とぶつからない斜め後方へスライド移動しながら対敵対応をする、「相手次第」を排し「自分次第」にシフトした術理です。

間合いを取り、敵と力がぶつからない場所へ移動しながら「去り打ち」することを正当な戦法としているため、女性やお子さん・お年を召した方にとって極めて現実的な護身術となっています(※よって水式門では、私を含め、女性の修了者さんが多いです)。

単換掌の術理を理解するには、修行の初期段階に、術理に熟練した指導者による対面での練習を通して対敵イメージをしっかりと構築することが必要不可欠、だと先生は言います。

『八卦掌は「勢(せい)」が命の武術。前に向かってひたすら進み続けることで勢を維持せよ。後ろ敵は勢があれば追いつけない。横敵には単換掌の術理・斜め後方スライドで対応せよ。電撃奇襲をすることで、守るべき人に手を出させない、囮(おとり)護衛による中国産護衛護身武術なんだ』は先生の「口癖」化した説明ですね。

相手の侵入してくる角度や強度、そして敵動作に対する自分の身体の使い方を、先生の技を受け、または先生を試し打ちをしながら自ら身体を動かして学んでいきます。 先生は、「私の技を受けるのが最も上達する近道となる。しっかりと見てイメージを作り、独り練習の際、そのイメージを真似するんだぞ。」と語り、常に相手になってくれます。 それは初心者には果たせない役割。水式門では、先生はいつでも技を示してくれます。相手もしてくれるし、新しい技を指導するとき、使い方もしっかりと見せてくれるから、一人の練習の時でも、イメージが残るのです。

よって最初から全く一人で行うことは、リアルな敵のイメージが分からない点から、大変難しいものとなります。この問題は、私がこの場で、先生の指導を受けたほうがといいと強くすすめる理由となっています。

私も石川県在住時は遠隔地門下生でした。先生が富山に来たときは、集中的に相手になってもらいました。石川県という遠くであっても、先生の教え方のおかげで、ブレずにここまで来ることができました。

単換掌の術理に基づいた弱者生存第一の八卦掌を指導する八卦掌の教室は、日本国内では水式門だけです(それか、公にしていません)。

弱者使用前提がゆえの現実的方法で自分を守る武術に興味がある方。力任せの攻撃にも負けない護身術や八卦掌を極めたいと思う方は、水式門の扉を叩いてください。水式門なら、弱者が生き残る可能性を生じさせる八卦掌中核技術を、明快に学ぶことができます

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2.八卦掌水式門は、仮入門制の有る純然たる「伝統門」道場

八卦掌水式門代表・水野の写真
八卦掌水式門代表・水野義人先生

八卦掌水式門は、代表である水野先生が、八卦掌第5世(梁派八卦掌第4世伝人)である師より指導許可を受けて門を開いた、純然たる「伝統門」です。それゆえ、入門資格を満たしているかを判断する仮入門制(仮入門期間中の人柄・態度を見て本入門を判断する制度)を、入門希望者すべての方に例外なく適用しています。もちろん私も仮入門期間を経て本入門しました。

水野先生が指導する八卦掌は、綺麗ごとのない護衛護身武術。一部に当然殺傷技法が伝えられ、昔の中国拳法と同じく実戦色が強い八卦掌。誰それ構わず指導することはいたしません。

特に先生は、拳法を始めた動機も真剣。他者への思いやりに欠ける人間に伝えてしまい、それで人が傷つけられてしまう事態を招くことを、心から心配しています。

よって各科に掲載された「入門資格」を満たした人間だと判断した場合にのみ、先生は本入門を認め、受け継いだ技法をお伝えしています。「八卦掌の伝統門として、門が負うべき当然の義務と配慮」。これも先生が常に話す口癖ですね。

水式門には『弱者生存の理で貫かれた護衛護身術「八卦掌」を日本全国各所に広め、誰もが、大切な人・自分を守る技術を学ぶことができる環境を創る』という揺るぎない理念があります。

先ほども触れたように、他者への思いやりに欠ける人間に伝えてしまうことは、技法が濫用され第三者が傷つく事態を招き、理念実現に真っ向から反する結果を生んでしまいます。

水野先生は、門入口を無条件に開放して指導し門を大きくすることより、たとえ仮入門制を設けて応募を敬遠されたとしても、他者への思いやりに欠ける人間に伝えてしまう事態を避けることを重視しています。

ここまで書くと、なかなか入ることのできない難しい道場だと思うかもしれませんが、そんなことはありません。仮入門制はありますが、一般的な常識と礼節、思いやりがあれば、心配する必要は全くありません

指導を受けてみれば分かるのですが、先生はいつも、門下生のことを考え、熱心に指導してくれ、怒鳴ったりもなく、笑顔です。安心してください(無礼な態度や乱暴なふるまいには、ベテラン・初心者関係なく厳しいですが)。

仮入門期間を経て本入門となった正式門下生には、「誰もが大切な人、自分を守ることができる清朝末式八卦掌」の全てを、丁寧に、熱心に、真剣に教えてくれます

迷ってるあなた。水式門には、積み重ねるならば、弱者と言われる者でも高みに達することができるシンプルで明快な技術体系があります。先生の温かく熱心な指導で、「守る」強さを手にしてみませんか。

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八卦掌水式門富山本科イメージ